ご案内
香りと出会っていくことで、自分らしさを逆に発見することもある。
自分らしい香りをみつけるためには、どのようにしたらよいのだろう。まずはとにかく、できるだけ多くの香りを唄いでみることである。
手首の内側にシュッとひと吹きして、しばらく時間を置き、アルコール分が飛んだあとにかがなくては本当の香りはわからない。こうすると一度に二つほどの香りしか試すことはできないということになる。
特にパルファム(香水)はつけた時から時間が経つにつれて香りが変化するので、その最後までを知ってからでないと最終的に決めることはできない。トップノートを好きと思っても、最後にやってくるラストノートが思いのほか濃くて嫌いな香りだったということもよくあるからだ。手首につけて二種類、あとはムエットという試香紙につけてもらって、だいたいの香りを知ることはできる。
そのムエットの中から選び手首で試すと効率がよいかもしれない。ラストノートまでかいでもその日は買わない。
一日経って、それでも好きな気持ちが変わらなければ、そこで初めて決めるのである。選ぶ香りはまず好きか嫌いか、ということが第一だ。
だがさらに自分らしさを求めるなら、その香りのイメージを言葉に置きかえてみる。同じフローラル系の香りでも、爽やかな甘さ、セクシーな甘さ、太陽のような、あるいは透明感のある甘さ、若々しい甘さもあれば、お母さんの暖かさを感じさせる甘さもある。
次は自分自身のイメージをやはり言葉にしてみるのだ。自分のイメージとぴったりのイメージの香りを選ぶか、少しずらして選ぶかは自分次第。
どちらにしてもぴたりとその人らしい香りをまとっている女性は、知的で奥深い人格を感じさせる。気に入ったあるひとつの香水を長年使い続け、ワードローブを開けるとその香りがフワッと漂う、かいだとき、ああ自分らしいな、と深い満足感に満たされるのだという。
私はひとつに決めることのできない性分だ。常に三つほどの香水をもって、時と場合によって使い分けている。
今は定番に着る服が黒や紺のパンツスーツが多いので、明るく柔らかな女らしさを感じさせるSの「アリュール」を中心に、気つけ薬的なピリッと辛いエスニックな香りの「コムデギャルソン」、長く使い続けているシセイドーフランスの「フェミニテデュボア」の三本を愛用している。「アリュール」はくせのない、誰にでも好かれる香りだが、あとの二つは辛口の、ちょっと変わった個性の強い香りである。
苦いような印象のひとひねりした香りが本来好みでもあるし、自分の内面ともシンクロするような気がしている。パルファムをつける時は膝の裏に点でチョンチョンと、なるべく上半身にはつけないが、時にはうなじにほんの少しつけることもある。
オードトワレのような軽いものはヴァポリザターで、自分より30センチほど離した場所の空中に幅広く吹きつけて、その香りの霧の中をくぐり抜ける。こうすると全身にまんべんなく面で香りづけすることができる。
香りはイマジネーションの遊び。自分スタイルの香りに巡り合ったとき、美しさの自信となって、その人を輝かせる。
「このころ、女としての自分が、とても稀薄になっていくような気がするの」あるとき、友人のひとりが、思い詰めたような顔でこんなことを話し始めた。彼女は40歳になったばかり。
子供はいないが、若いときに結婚した夫とずっと仲むつまじく、美しくしつらえたインテリアの家に住む幸せな妻、といった印象の女性だった。専門職の仕事も順調で、女として安定し満たされているように見えていた彼女から、そんなことを聞かされて、私は何だか意外な思いだった。
「不思議なのだけれど、40の声を聞いた途端にそんな気持ちになったの。それまで30代の間は、あまり年齢的なことを意識したことはなかったの。28歳ぐらいからずっと変わらない気分だった。ところが、このころどんどん自分の中の女の部分が薄まって、スカスカになっていくような気がして怖いのよね。肌が乾いてカサカサしてくるような感じと言ったらいいかしら」
日本とまるで逆の発想だった。
若者中心の文化である日本では生まれ得ない、大人の知恵、ファッションの極意と思った。それから約10年が経った。
あのときのワンピースは今もワードローブの中にある。時折、取り出して着てみると40歳の私にも違和感がない。
というよりむしろ、今の方がずっとしっくりするのである。やはりイタリアの服だな、と改めて感心した。
自分に手をかけるということは、赤いドレスを着るということだけではないだろう。まず自分らしさという“花”を見つけ、その花をどう咲かせるかを考えるということだ。
成熟したおしゃれは、まずそこから始まっていく。黒のタートルセーターは不思議な服である。
何の変哲もないデザイン、流行の流れとも関係なく、いつでもどこにでもあるものなのに、なぜか気になる存在である。黒のタートルの似合う女になりたいと少女の頃から思ってきたのだ。
黒タートルは、着る人によってさまざまなイメージを作り出す、他に例のない服ではないだろうか。オードリーヘップバーンが映画「パリの恋人」で細いパンツに組みあわせて着た姿には、コリッと清潔で、まだ青く成熟しきっていない娘の不安や背のびしたい気持ちを感じられた。
同じ女優でもKが着ると、その全身から漂うゴージャス感が抑えられて、知的なマダムの印象になる。
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